知的障害で障害年金はもらえる?20歳からの受給条件・申請方法を社労士が解説
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知的障害のある方やそのご家族にとって、将来の生活設計や経済的な基盤は大きな関心事の一つです。「うちの子も障害年金をもらえるのだろうか?」「20歳になったらどんな手続きが必要なの?」「申請は難しいの?」といった疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
知的障害のある方の生活を支える重要な制度の一つが「障害年金」です。特に、多くの場合「20歳前傷病による障害基礎年金」として受給の対象となります。
この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、知的障害で障害年金を受給するための条件、申請手続の流れ、そして申請における重要なポイントや注意点について、特に20歳からの申請を中心に詳しく解説します。
この記事を通じて、知的障害のあるご本人とご家族が障害年金制度への理解を深め、経済的な安心を得るための一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。
知的障害と障害年金の基礎知識
まず、障害年金制度の基本的な仕組みと、知的障害がどのように障害年金の対象となるのかについてご説明します。
障害年金とは?
障害年金は、病気やケガによって法律で定められた障害の状態になった場合に支給される公的な年金です。知的障害の場合、多くは生まれたときから障害がある(または幼少期に発症している)ため、「20歳前傷病による障害基礎年金」の対象となることが一般的です。
- 障害基礎年金: 国民年金制度から支給される年金で、障害等級は1級と2級があります。20歳前に初診日(知的障害の場合は「出生日」とされることが多い)がある場合や、国民年金加入中に初診日がある方が対象です。
- 障害厚生年金: 厚生年金に加入している間に初診日がある場合に、障害基礎年金に上乗せして支給されます。知的障害の場合、20歳前に初診日があるケースが多いため、まずは障害基礎年金が基本となりますが、20歳以降に厚生年金加入中に初めて診断された場合などは対象となる可能性もあります。
知的障害も障害年金の対象です
知的障害は、「精神の障害」として障害年金の支給対象となります。知的障害の認定は、知能指数(IQ)だけでなく、日常生活能力や社会生活への適応状態などを総合的に評価して行われます。
多くの場合、知的障害は出生時または幼少期に起因するものとして扱われるため、初診日を「出生日」として20歳から障害基礎年金を請求できるケースが多くなります。
知的障害で障害年金を受給するための条件
知的障害で障害年金を受給するためには、主に以下の条件を満たす必要があります。
- 対象となる年金制度と初診日:
- 20歳前傷病による障害基礎年金:
- 初診日(知的障害の場合は多くが出生日とみなされます)が20歳未満であること。
- 障害認定日(原則として20歳に達した日、または初診日から1年6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日)に一定の障害状態にあること。
- 国民年金加入中に診断が確定した場合の障害基礎年金:
- 初診日に国民年金に加入しており、保険料納付要件を満たしていること。
- 障害認定日に一定の障害状態にあること。
- 20歳前傷病による障害基礎年金:
- 障害状態要件:障害の程度が認定基準に該当すること 知的障害の障害等級は、「精神の障害」の認定基準に基づいて判定されます。知能指数(IQ)だけでなく、コミュニケーション能力、身辺処理能力、問題解決能力、社会性など、日常生活のさまざまな側面における支障の程度が総合的に評価されます。
- 1級: 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの(食事や身の回りのことなど、常時援助が必要な状態)。
- 2級: 日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの(食事や身の回りのことなど、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度)。
- 療育手帳との関係: 療育手帳(愛の手帳など、自治体によって名称が異なります)の等級と障害年金の等級は、必ずしも一致するものではありません。療育手帳は福祉サービスを受けるためのものであり、障害年金は所得保障を目的とする制度で、それぞれ異なる基準で判定されます。ただし、療育手帳の情報は診断書作成や審査の際の参考情報の一つとはなり得ます。
- 保険料納付要件:
- 20歳前傷病による障害基礎年金の場合: 被保険者としての保険料納付は問われません。つまり、本人が保険料を納めていなくても受給できます。これは、20歳前の国民年金任意加入期間に加入していなかった場合でも対象となるためです。
- 国民年金加入中に診断が確定した場合: 通常の障害基礎年金と同様に、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること、または初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないことが必要です。
- 所得制限(20歳前傷病による障害基礎年金の場合): 20歳前傷病による障害基礎年金は、本人の前年の所得が一定額以上ある場合には、年金額の一部または全部が支給停止となる所得制限があります。扶養親族の数によって制限額は異なります。
知的障害の障害年金申請における重要なポイント
知的障害で障害年金を申請する際には、特有の留意点があります。
- 申請のタイミング:
- 20歳到達時: 20歳前傷病による障害基礎年金は、原則として20歳の誕生日の前日から申請手続きが可能です。障害認定日が20歳到達日となるため、このタイミングで申請するケースが最も一般的です。
- 障害認定日請求: 初診日から1年6ヶ月を経過した日が障害認定日となり、その時点で障害等級に該当していれば、20歳前でも申請できる場合があります(ただし、支給は20歳から)。
- 事後重症請求: 障害認定日には障害等級に該当しなかったものの、その後症状が悪化し、65歳に達する日の前日までに障害等級に該当した場合に行う請求です。
- 診断書の取得と内容の重要性:
- 診断書は「精神の障害用」のものを使用します。医師には、出生からの生育歴、療育の状況、日常生活能力(食事、入浴、着替え、金銭管理、コミュニケーションなど)、就労状況(作業所への通所なども含む)などを具体的に、かつ正確に伝えることが非常に重要です。
- 特に知的障害の場合、現在の状態だけでなく、幼少期からの発達の遅れや、学習面・行動面での特徴、これまでに受けた支援などを詳細に伝えることで、より実態に即した診断書を作成してもらいやすくなります。
- 保護者や支援者が、日常生活の様子を記録したメモなどを医師に提供することも有効です。
- 病歴・就労状況等申立書(またはそれに代わる申立書)の丁寧な作成:
- この書類は、出生から現在までの発育・養育状況、日常生活の状況、学習の状況、就労(作業)の状況などを、ご本人やご家族が記載するものです。診断書を補完し、審査機関にご本人の状態を具体的に伝えるための重要な資料となります。
- 知的障害の場合、「申立書(知的障害)」という専用の様式が用いられることもあります。
- 客観的な事実に基づいて、できるだけ具体的に、エピソードを交えながら記載することがポイントです。保護者の方が中心となって作成することが多いですが、ご本人が書ける部分があれば、それも大切です。
- 他の障害との併存: 知的障害に加えて、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)や、二次的な精神疾患(うつ病、不安障害など)を併存している場合は、それらの症状も含めて総合的に評価されます。診断書や申立書には、併存する障害についても詳しく記載することが重要です。
障害年金申請の流れ(知的障害・20歳前傷病の場合)
知的障害で、特に20歳前傷病による障害基礎年金を申請する場合の一般的な流れは以下の通りです。
- 年金事務所・市区町村役場への相談: まずは20歳になる少し前(誕生日の2ヶ月程度前など)に、最寄りの年金事務所や市区町村の年金窓口に相談し、必要な書類や手続きについて確認します。
- 必要書類の確認と入手: 年金請求書、診断書様式(精神の障害用)、病歴・就労状況等申立書(または申立書(知的障害))、住民票、戸籍謄本、所得証明書(20歳前傷病の場合)など、必要な書類を確認し、入手します。
- 医師への診断書作成依頼: 主治医(精神科医など)に診断書の作成を依頼します。事前に日常生活の状況などをまとめたメモを渡すと、スムーズに作成が進むことがあります。知的障害の場合、幼少期からの情報が重要になるため、母子手帳や療育手帳、学校の記録なども参考にしながら医師に伝えましょう。
- 病歴・就労状況等申立書(または申立書(知的障害))の作成: 出生からの発育状況、学歴、職歴(作業所への通所などを含む)、日常生活の状況などを具体的に記載します。保護者の方が協力して作成することが一般的です。
- 年金請求書の作成・提出: 年金請求書に必要事項を記入し、収集した診断書、申立書、その他の必要書類を添えて、住所地の市区町村役場または年金事務所に提出します。
- 審査・結果通知: 提出された書類に基づいて、日本年金機構で審査が行われます。審査には通常3ヶ月~半年程度の時間がかかります。審査結果は郵送で通知されます。
社労士に障害年金申請を依頼するメリット
知的障害の障害年金申請は、ご本人やご家族にとって、手続きの煩雑さや書類作成の難しさから大きな負担となることがあります。社会保険労務士に申請代行を依頼することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 専門知識に基づく的確なサポート: 20歳前傷病など、知的障害特有の申請ケースにも精通しており、制度の複雑な部分もわかりやすく説明し、適切なアドバイスを行います。
- 質の高い書類作成支援: 日常生活能力や就労状況など、審査で重視されるポイントを押さえた診断書依頼のサポートや、病歴・就労状況等申立書の作成支援により、受給可能性を高めます。
- 手続きの代行による負担軽減: 書類の収集から作成、提出までの一連の手続きを代行することで、ご本人やご家族の精神的・時間的な負担を大幅に軽減します。
- 年金事務所との円滑な連携: 専門家として、年金事務所からの問い合わせや追加書類の要求などにもスムーズに対応します。
- セカンドオピニオンとしての役割: すでに申請準備を進めている場合でも、専門家の視点からアドバイスを受けることで、より確実な申請に繋げることができます。
知的障害の障害年金に関するよくある質問
Q1. 療育手帳を持っていれば必ず障害年金をもらえますか?また、療育手帳の等級と障害年金の等級は同じですか?
A1. 療育手帳を持っていることが、必ずしも障害年金の受給に直結するわけではありません。また、療育手帳の等級と障害年金の障害等級は、それぞれの制度の目的や基準が異なるため、一致するとは限りません。ただし、療育手帳は障害の状態を示す一つの資料として参考にされます。
Q2. 20歳を過ぎてから知的障害と診断されました。障害年金は申請できますか?
A2. 20歳を過ぎてから初めて知的障害と診断された場合でも、障害年金を申請できる可能性はあります。この場合、診断を受けた日が初診日となり、その日に加入していた年金制度(国民年金または厚生年金)の保険料納付要件を満たしていれば、通常の障害年金として請求できます。ただし、医学的にみて、その障害がいつから存在していたのかが問われることもあります。
Q3. 働いていても(例えば、就労継続支援A型・B型事業所などに通っていても)障害年金はもらえますか?
A3. 就労していることや、作業所に通っていることだけで障害年金がもらえなくなるわけではありません。収入額だけでなく、仕事の内容、必要な援助の程度、勤務時間などを総合的にみて、障害の程度が判断されます。20歳前傷病による障害基礎年金の場合は、本人の所得による支給制限がありますが、一定の収入があっても受給できる場合があります。
Q4. 親が代わりに手続きをすることはできますか?
A4. はい、ご本人が手続きを行うことが難しい場合は、親御さんや法定代理人などが代理で申請手続きを行うことができます。知的障害の場合、多くは親御さんが申請手続きの中心的な役割を担われます。
Q5. 申請してから結果が出るまでどれくらいかかりますか?
A5. 一般的に、申請書類を提出してから結果が通知されるまでには、3ヶ月から半年程度の時間がかかります。書類に不備があった場合や、審査に時間を要するケースでは、さらに時間がかかることもあります。
ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ
知的障害のある方が、その人らしい豊かな生活を送るために、障害年金は経済的な基盤を支える非常に重要な制度です。特に20歳という節目は、障害年金受給を考える大きなタイミングとなります。
申請手続きは複雑に感じるかもしれませんが、正しい情報を得て、適切な準備をすれば、道は開けます。もし、申請手続きにご不安を感じたり、書類作成でお困りのことがあれば、決して一人で抱え込まず、障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。
当事務所では、知的障害のあるご本人とご家族に寄り添い、丁寧にお話を伺いながら、障害年金の受給に向けて全力でサポートいたします。
この記事が、知的障害のある方とそのご家族にとって、障害年金という希望の光を見出すための一助となれば心より幸いです。