大人の発達障害で障害年金はもらえる?診断が遅れた場合の申請ポイントを社労士が解説
目次
「仕事が長続きしない」「人間関係でいつもつまずいてしまう」「片付けや段取りが極端に苦手で、日常生活に支障が出ている」…。こうした悩みを抱え、成人してから発達障害(自閉スペクトラム症:ASD、注意欠如・多動症:ADHDなど)と診断される方が増えています。
子供の頃は気づかれにくかったり、本人が努力でカバーしてきたものの、社会に出て環境が変化したり、求められる役割が複雑になったりすることで、発達障害の特性による困難さが顕著になることは少なくありません。
「大人になって診断されたけど、障害年金はもらえるの?」「初診日はいつになるの?」「子供の頃のことはあまり覚えていない…」といった不安や疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、「大人の発達障害」で障害年金を受給するための条件、診断が遅れた場合の初診日の考え方、申請における重要なポイントや注意点について、詳しく解説します。
この記事が、成人期に発達障害と診断され、日々の生活や仕事に困難を感じている方々にとって、経済的な安心を得るための一歩を踏み出すための情報源となれば幸いです。
「大人の発達障害」と障害年金の基礎知識
まず、障害年金制度の基本的な仕組みと、「大人の発達障害」がどのように障害年金の対象となるのかについてご説明します。
障害年金とは?
障害年金は、病気やケガによって法律で定められた障害の状態になった場合に支給される公的な年金です。初診日に加入していた年金制度に応じて、主に以下の2種類があります。
- 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方(自営業者、専業主婦(夫)、学生、無職の方など)、または20歳前に初診日がある方が対象です。
- 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方(会社員や公務員など)が対象です。障害基礎年金に上乗せして支給されます。
「大人の発達障害」も障害年金の対象です
発達障害は、生まれ持った脳機能の特性によるものであり、大人になってから診断されたとしても、その特性による日常生活や社会生活上の困難さが一定の基準を満たせば、障害年金の支給対象となります。「精神の障害」として認定基準に基づいて審査されます。
重要なのは、「診断名」だけではなく、発達障害の特性がご自身の生活や仕事に具体的にどのような支障をもたらしているか、その「程度」が評価されるという点です。
大人の発達障害で障害年金を受給するための条件
「大人の発達障害」で障害年金を受給するためには、主に以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 初診日要件:発達障害の症状により初めて医師の診療を受けた日が特定できること 「初診日」とは、発達障害の特性による困難さについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。これは「大人の発達障害」の申請において最も重要なポイントの一つです。
- 成人後に初めて受診した場合: 仕事での不適応や人間関係の悩み、あるいはうつ病などの二次的な精神疾患をきっかけに医療機関を受診し、その過程で発達障害の診断に至った場合、その最初の受診日が初診日となることが一般的です。
- 幼少期に受診歴がある場合: 幼少期に発達の遅れや気になる行動で小児科や専門機関を受診した記録があれば、それが初診日となる可能性もあります。ただし、その受診が現在の発達障害の診断と関連付けられるかが重要です。
- 診断日と初診日は異なる: 発達障害の確定診断が下りた日ではなく、その原因となる症状で最初に医療機関を受診した日が初診日となります。
- 保険料納付要件:年金保険料を一定期間納付していること 初診日が20歳以降である場合、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、以下のいずれかを満たしている必要があります。
- 保険料納付済期間(免除・猶予・学生納付特例期間を含む)が加入期間の3分の2以上あること。
- 初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。 初診日が20歳前であれば、本人の保険料納付要件は問われません(20歳前傷病による障害基礎年金)。
- 障害状態要件:障害の程度が認定基準に該当すること 障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月を経過した日、または20歳前傷病の場合は20歳に達した日)において、発達障害による障害の程度が、国が定める障害等級(障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級・2級・3級)に該当している必要があります。 発達障害の認定では、コミュニケーション能力、対人関係の構築力、学習や仕事の遂行能力、集中力、行動のコントロール、日常生活の自己管理能力などが、発達障害の特性によってどの程度制約されているかを総合的に評価します。 特に成人期においては、就労状況(仕事内容、必要な配慮、継続性など)や家庭生活における支障も重要な評価要素となります。また、うつ病や不安障害といった二次障害を併発している場合は、それらの症状も含めて全体の障害の程度が判断されます。
「大人の発達障害」の障害年金申請における重要なポイント
「大人の発達障害」の申請では、その特性や経緯を踏まえた上で、特に以下の点に注意して準備を進めることが重要です。
- 初診日の特定と証明の丁寧な取り組み:
- ご自身の記憶を辿り、初めて発達障害に関連する症状(生きづらさ、仕事での困難、対人関係の悩み、二次障害の症状など)で医療機関を受診した時期を特定します。当時の日記、手帳、家族の証言なども手がかりになります。
- 受診した医療機関にカルテが残っていれば「受診状況等証明書」を取得します。もしカルテが破棄されていても、他の客観的な資料(診察券、お薬手帳、当時の診断書、第三者の証明など)で証明できる場合があります。諦めずに専門家にご相談ください。
- 日常生活・社会生活・就労における困難さの具体的な申告:
- 「大人の発達障害」の方が直面しやすい具体的な困難(例:職場での指示理解の困難、マルチタスクがこなせない、対人関係での誤解が生じやすい、計画的な行動が苦手で納期を守れない、感覚過敏で特定の環境が苦痛、家事や金銭管理が困難など)を、詳細なエピソードを交えて「病歴・就労状況等申立書」に記載します。
- 単に「できない」だけでなく、「なぜできないのか(発達障害のどの特性が影響しているか)」、「どの程度できないのか」、「そのためにどのような工夫や努力をしても改善が難しいのか」を具体的に記述することが重要です。
- 転職を繰り返している、長期間就労できていない、就労していても著しい配慮を受けている、などの状況も正確に申告します。
- 二次障害の状況も正確に伝える: 発達障害の特性による慢性的なストレスや困難から、うつ病、不安障害、適応障害、睡眠障害などの二次障害を併発しているケースは少なくありません。これらの二次障害の症状や治療経過、それによる生活への影響も、障害の程度を判断する上で重要な要素となるため、診断書や申立書に漏れなく記載することが大切です。
- 発達障害に理解のある医師による診断書の重要性: 診断書は審査結果を左右する最も重要な書類です。発達障害の特性や、それが成人期の社会生活に与える影響について深く理解している医師に作成してもらうことが望ましいです。
- 幼少期からの生育歴(もし分かれば)だけでなく、成人後の具体的なエピソード(仕事での失敗談、対人関係での苦労、日常生活での困りごとなど)を医師にしっかりと伝えましょう。
- 就労に関する医師の意見(どのような仕事なら可能か、どのような配慮が必要かなど)も、診断書に記載してもらうと有効な場合があります。
- 病歴・就労状況等申立書の丁寧な作成: この書類は、ご自身の言葉で、発達障害の特性による困難さを審査員に伝えるための重要な機会です。
- 幼少期から現在に至るまでの生活歴、学歴、職歴(失敗経験や困難だった点も含む)、日常生活や社会生活での支障、治療歴などを時系列で、具体的に記述します。
- なぜ成人するまで診断に至らなかったのか(例:本人が努力でカバーしてきた、周囲の無理解、受診へのためらいなど)といった背景も、可能であれば補足的に記載すると、より状況が伝わりやすくなることがあります。
- ご自身で作成するのが難しい場合は、家族や支援者、専門家のサポートを得ることも検討しましょう。
障害年金申請の流れ(大人の発達障害の場合)
基本的な申請の流れは他の傷病と同様ですが、「大人の発達障害」の場合、特に初診日の特定やこれまでの生活歴・職歴の整理に時間を要することがあります。
- 年金事務所・市区町村役場への相談: まずは制度の概要や必要書類について確認します。
- 初診日の確認・証明書類の準備: 上記「重要なポイント」で解説したように、丁寧に取り組みます。
- 医師への診断書作成依頼: 発達障害に理解のある医師を選び、必要な情報を的確に伝えます。
- 病歴・就労状況等申立書の作成: 具体的なエピソードを交え、詳細に記載します。
- 年金請求書等の作成・提出: 必要書類を揃えて提出します。
- 審査・結果通知: 通常3ヶ月~半年程度かかります。
社労士に障害年金申請を依頼するメリット
「大人の発達障害」の障害年金申請は、初診日の特定が複雑であったり、症状の客観的な証明が難しかったりするケースが多く、専門的なサポートが有効です。社会保険労務士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
- 複雑な初診日認定への的確なアドバイスとサポート。
- 「見えにくい困難さ」や二次障害の状況を的確に伝えるための書類作成支援。
- 過去の職歴や生活状況を整理し、審査に有利な情報を選び出すサポート。
- 煩雑な手続きの代行による、ご本人やご家族の精神的・時間的負担の軽減。
- 障害年金の専門家として、受給の可能性を高めるための最適な申請戦略の提案。
「大人の発達障害」の障害年金に関するよくある質問
Q1. 30代(40代、50代)で初めて発達障害と診断されました。障害年金は対象になりますか?
A1. はい、対象となる可能性があります。年齢に関わらず、発達障害の特性による日常生活や就労への支障が一定の基準を満たせば、障害年金を受給できる可能性があります。重要なのは初診日と障害の状態です。
Q2. 子供の頃は特に問題なかった(と思っていた)のですが、大人になってから仕事や人間関係でつまずき、発達障害と診断されました。初診日はどうなりますか?
A2. このようなケースでは、大人になって仕事や人間関係の困難さを自覚し、初めて医療機関を受診した日が初診日となることが一般的です。子供の頃に特性が顕在化していなかったとしても、発達障害は生まれ持った特性ですので、成人後の受診でも問題ありません。
Q3. 転職を繰り返しています。これは障害年金の審査で考慮されますか?
A3. はい、考慮される重要な要素の一つです。発達障害の特性により、一つの仕事が長続きせず転職を繰り返してしまう状況は、就労能力に制約があると判断される材料になり得ます。その理由や経緯を具体的に申立書に記載しましょう。
Q4. 発達障害の特性で家事や育児がうまくできません。これも評価されますか?
A4. はい、評価の対象となります。障害年金は就労だけでなく、日常生活能力の支障も評価します。家事や育児が発達障害の特性によって著しく困難な場合、その状況を具体的に伝えることで、障害の程度として考慮される可能性があります。
Q5. 会社に発達障害であることを隠して働いていますが、申請に影響しますか?
A5. 会社に伝えているかどうかは、障害年金の審査に直接影響しません。重要なのは、実際の就労状況(仕事内容、受けている配慮の有無、業務遂行の困難さなど)です。ただし、診断書や申立書には、職場での困難さや必要な配慮について正確に記載する必要があります。
ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ
大人になってから発達障害と診断され、これまでの生きづらさの原因が分かったものの、今後の生活や仕事への不安を抱えている方は少なくありません。障害年金は、そうした方々が経済的な安定を得て、治療に専念したり、自分に合った働き方や生活スタイルを見つけたりするための一つの大きな支えとなり得ます。
診断が遅れたからといって、諦める必要はありません。初診日の特定や症状の伝え方など、専門的な知識が必要となる場面も多いため、一人で悩まず、まずは障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。
当事務所では、「大人の発達障害」の特性や、それに伴う特有の困難さを深く理解し、お一人おひとりの状況に寄り添いながら、障害年金の受給に向けて全力でサポートいたします。
この記事が、あなたがより安心して自分らしい人生を歩むための一助となれば幸いです。