人工血管で障害年金は受給できる?対象疾患・等級・申請のポイントを社労士が解説

大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症など、血管の病気により人工血管(グラフト)の挿入(置換)手術やステントグラフト内挿術を受けられた方。手術が無事に終わった安堵とともに、今後の生活や仕事、そして経済的なことについて、様々な思いがよぎることでしょう。

「人工血管を入れたら、障害年金の対象になるの?」「どのくらいの等級になるんだろう?」「申請はいつからできるの?」

このような疑問や不安をお持ちではないでしょうか。実は、人工血管を体内に留置された方は、一定の条件を満たせば障害年金を受給できる可能性があります。

この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、人工血管を挿入された場合の障害年金の受給条件、認定基準、申請手続の流れ、そして申請における重要なポイントや注意点について、詳しく解説します。

この記事を通じて、人工血管とともに新たな一歩を踏み出す皆様が、障害年金制度への理解を深め、経済的な不安を少しでも和らげるための一助となれば幸いです。

人工血管と障害年金の基礎知識

まず、障害年金制度の概要と、人工血管の挿入がどのように障害年金の対象となるのかについてご説明します。

障害年金とは?

障害年金は、病気やケガによって法律で定められた障害の状態になった場合に支給される公的な年金です。初診日に加入していた年金制度に応じて、主に以下の2種類があります。

  • 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方(自営業者、専業主婦(夫)、学生、無職の方など)、または20歳前に初診日がある方が対象です。障害等級は1級と2級です。
  • 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方(会社員や公務員など)が対象です。障害基礎年金に上乗せして支給され、障害等級は1級から3級まであります。3級よりも軽い障害状態の場合には障害手当金(一時金)が支給されることもあります。

人工血管の挿入も障害年金の対象です

人工血管の挿入は、障害年金の認定基準において「胸腹部臓器の機能の障害」の中の「人工血管・グラフト」に関する項目、または原因となった疾患(例:大動脈疾患、末梢動脈疾患などによる血行障害)による障害として評価されます。

人工血管は、病気によって損傷したり狭窄・閉塞したりした血管の代わりに血液の通り道を確保するための重要な医療材料です。このような人工物を体内に留置すること自体が、一定の障害状態にあると見なされるため、障害年金の対象となり得るのです。特に、大動脈や主要な末梢血管への人工血管(ステントグラフトを含む)の使用は、障害等級に直接影響する場合があります。

人工血管で障害年金を受給するための条件

人工血管挿入で障害年金を受給するためには、主に以下の3つの条件を満たす必要があります。

  1. 初診日要件:人工血管挿入の原因となった傷病で初めて医師の診療を受けた日が特定できること 「初診日」とは、人工血管挿入の原因となった傷病(例えば、大動脈瘤、大動脈解離、閉塞性動脈硬化症、バージャー病など)の症状について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。この初診日にどの年金制度に加入していたかによって、支給される障害年金の種類が決まります。

  2. 保険料納付要件:年金保険料を一定期間納付していること 初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、以下のいずれかを満たしている必要があります。

    • 保険料納付済期間(免除・猶予・学生納付特例期間を含む)が加入期間の3分の2以上あること。
    • 初診日が令和8年3月31日以前(※執筆時点2025年5月8日のため、現行の特例に基づいています)にある場合は、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと(特例)。 (20歳前に初診日がある場合は、この納付要件は問われません)
  3. 障害状態要件:障害の程度が認定基準に該当すること 人工血管を挿入した場合の障害年金の認定基準は、主に以下のようになっています。

    • 原則として障害等級3級(障害厚生年金の場合): 日本年金機構の障害認定基準では、「胸腹部大動脈に人工血管(グラフト)をそう入置換したもの」または「腸骨動脈から下肢の動脈へバイパス術(人工血管使用)を施行したもの」は、原則として障害等級3級に認定するとされています。これは、初診日に厚生年金に加入していた方が対象です。ステントグラフト内挿術も同様に扱われます。

    • 障害基礎年金の場合(1級または2級): 初診日に国民年金に加入していた方や20歳前傷病の方は、障害基礎年金の対象となります。障害基礎年金には3級の制度がないため、上記の3級に該当する状態だけでは、原則として障害基礎年金の支給対象とはなりません。 しかし、人工血管を挿入したことに加え、術後の経過や合併症などにより、日常生活が著しく制限される状態(2級相当:例えば、安静時でも息切れや胸痛があり、活動が著しく制限される)や、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度の状態(1級相当:例えば、常時介助が必要で、ほとんどの活動ができない)であれば、障害基礎年金も対象となる可能性があります。

    • 症状や日常生活の状況による総合評価: 人工血管を挿入したという事実だけでなく、その後の自覚症状(疼痛、冷感、しびれ、間歇性跛行の程度など)、他覚所見、一般状態、日常生活動作(ADL)の状況(特に歩行能力や活動範囲の制限)、労働能力、治療の継続状況、検査成績(ABI検査、血管エコー、CT、MRIなど)などを総合的に評価して、最終的な障害等級が決定されます。 原因となった疾患の種類や重症度、手術部位によって、残存する症状や機能障害は異なります。例えば、閉塞性動脈硬化症で下肢に人工血管を入れた場合の間歇性跛行の程度や、大動脈瘤破裂後に広範囲の人工血管置換を行った場合の全身状態などが考慮されます。

人工血管の障害年金申請における重要なポイント

人工血管を挿入された方の障害年金申請では、以下の点が特に重要になります。

  • 申請のタイミング(障害認定日): 大動脈などに人工血管(グラフト)を挿入置換した場合、またはステントグラフトを内挿した場合の障害認定日は、原則としてその手術日(挿入日・内挿日)となります。これは、通常の傷病のように初診日から1年6ヶ月を待つ必要がない特例です。手術後、状態が安定したら速やかに申請準備に入ることができます。

  • 診断書の内容の正確性: 使用する診断書は、原因疾患や手術部位により「循環器疾患の障害用」(様式第120号の3)または「胸腹部臓器・体幹骨・その他の障害用」(様式第120号の6-(1))などが考えられます。どちらの様式を用いるか、また記載内容は主治医とよく相談してください。 医師には以下の情報を正確に記載してもらう必要があります。

    • 人工血管の挿入(内挿)年月日、種類、挿入部位。
    • 手術の目的となった傷病名とその発症からの経緯。
    • 手術後の経過、現在の自覚症状(例:胸痛、腹痛、腰背部痛、下肢の疼痛・冷感・しびれ、間歇性跛行の出現距離など)。
    • 他覚所見、関連する検査成績(ABI、SPP、血管エコー、CT、MRIなど)。
    • 日常生活の状況、特に身体活動能力の程度(どの程度の活動で症状が出るか、歩行可能な距離など)。
    • 就労している場合は、仕事内容や職場での配慮の状況。 ご自身の状態(安静時や労作時の症状、日常生活での具体的な支障)を正確に医師に伝え、診断書に具体的に反映してもらうことが極めて重要です。
  • 病歴・就労状況等申立書の丁寧な作成: この書類は、発症から人工血管挿入に至るまでの経緯、手術後の生活の変化、自覚症状、日常生活や就労における具体的な支障(どの程度の作業が困難か、どのような配慮が必要かなど)を、ご自身の言葉で時系列に沿って記載するものです。 人工血管を挿入したことによる精神的な負担や、定期的な検査・管理の必要性、再手術のリスクへの不安なども、状況に応じて補足的に記載することができます。

  • 就労状況との関連(特に3級の場合): 障害厚生年金3級は「労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされています。人工血管を挿入して就労している場合でも、以前と同じように働けなくなったり、長時間の立ち仕事や重量物の運搬が困難になったり、職場からの配慮が必要になったりした状況を具体的に伝えることが重要です。

障害年金申請の流れ(人工血管挿入の場合)

人工血管挿入の場合、障害認定日が手術日となるため、比較的早期に申請手続きを開始できます。

  1. 年金事務所・市区町村役場への相談: 制度の概要や必要書類を確認します。
  2. 初診日の確認・証明書類の準備: 人工血管挿入の原因となった傷病の初診日を特定し、証明書類(受診状況等証明書など)を準備します。
  3. 医師への診断書作成依頼: 人工血管を挿入した医療機関の医師に、手術日以降の日付で診断書の作成を依頼します。
  4. 病歴・就労状況等申立書の作成: ご自身の状況を具体的に記載します。
  5. 年金請求書等の作成・提出: 必要書類を揃えて年金事務所または市区町村役場に提出します。
  6. 審査・結果通知: 通常3ヶ月~半年程度かかります。

社労士に障害年金申請を依頼するメリット

人工血管の障害年金申請は、障害認定日の特例の理解、適切な診断書様式の選択や記載内容の確認など、専門的な知識が求められる場面があります。社会保険労務士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  • 障害認定日の特例など、制度の正確な理解に基づいた適切なアドバイス。
  • 原因疾患や手術内容に応じた診断書作成依頼時のポイントや、記載内容のチェック。
  • 日常生活や就労への影響を的確に伝えるための「病歴・就労状況等申立書」作成サポート。
  • 煩雑な手続きの代行による、ご本人やご家族の精神的・時間的負担の軽減。
  • 障害年金の専門家として、受給の可能性を高めるための最適な申請戦略の提案。

人工血管の障害年金に関するよくある質問

Q1. 人工血管を入れたら必ず障害年金3級をもらえますか?

A1. 初診日に厚生年金に加入しており、保険料納付要件を満たしていれば、胸腹部大動脈などに人工血管を挿入した場合、原則として障害厚生年金3級に認定されます。ただし、症状が極めて軽く、日常生活や労働にほとんど支障がないと客観的に判断された場合など、個別の状況によってはこの限りではありません。

Q2. 人工血管を入れたのは数年前ですが、今からでも申請できますか?

A2. はい、申請できます。障害年金の請求権の時効は原則5年ですが、これは「受給権が発生してから5年以内に請求しないと、最大5年分しか遡っての支給を受けられない」という意味です。障害認定日(人工血管挿入日)から5年以上経過していても、将来に向かっての年金はいつでも請求できます。ただし、遡及して受け取れるのは最大で過去5年分となります。

Q3. 働いていても障害年金はもらえますか?(特に3級の場合)

A3. はい、働いていても障害年金を受給できる可能性はあります。特に障害厚生年金3級は、ある程度の就労を継続しながらも「労働が著しい制限を受ける」状態が対象です。人工血管挿入により、仕事内容に配慮が必要になったり、以前と同様の業務遂行が困難になったりした場合は、その状況を具体的に伝えることが重要です。

Q4. 障害基礎年金(国民年金)の加入者でも、人工血管で障害年金はもらえますか?

A4. 人工血管を挿入したという事実だけでは、原則として障害基礎年金の対象(2級以上)とはなりません。しかし、人工血管挿入後も日常生活が著しく困難な状態(例えば、安静時でも症状があり、活動が極度に制限されるなど)であれば、2級以上に該当する可能性があり、その場合は障害基礎年金を受給できます。

Q5. ステントグラフトでも対象になりますか?

A5. はい、大動脈などにステントグラフトを内挿した場合も、人工血管(グラフト)を挿入置換したものと同様に扱われ、障害年金の対象となります。

Q6. 人工血管の耐久性や再手術の可能性は、障害年金の審査に関係しますか?

A6. 直接的に等級を左右するものではありませんが、将来的な再手術の必要性や、それに対する不安、定期的な検査・管理の必要性などは、「病歴・就労状況等申立書」に記載することで、申請者の状況を伝える補足情報となり得ます。審査はあくまで申請時点の障害状態に基づいて行われます。

ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ

人工血管を体内に留置された方の多くは、障害年金を受給できる可能性があります。この制度を正しく理解し活用することで、経済的な不安を軽減し、安心して治療の継続や日常生活を送るための一助とすることができます。

認定基準の解釈や申請手続きは複雑な面もありますので、「自分の場合はどうだろうか?」と少しでも疑問に思われたら、諦めずに障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。

当事務所では、人工血管を挿入された方々の状況を丁寧に伺い、障害年金の受給に向けて最適なサポートを提供いたします。

この記事が、皆様の不安を少しでも解消し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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