人工関節で障害年金はもらえる?対象部位・等級・申請時期を社労士が解説

長年の関節の痛みや機能障害に悩まされ、人工関節置換術(股関節、膝関節、肩関節など)を受けられた方、あるいはこれから手術を検討されている方。手術によって痛みが和らぎ、生活の質が向上することへの期待とともに、手術後の生活や仕事、そして経済的なことについて様々な思いがあることでしょう。

「人工関節を入れたら、障害年金がもらえるって聞いたけど本当?」「どのくらいの等級になるの?」「申請はいつからできるのだろうか?」

このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。人工関節を体内にそう入置換された方は、一定の条件を満たせば障害年金を受給できる可能性があります。

この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、人工関節で障害年金を受給するための条件、対象となる関節の部位や等級、申請のタイミングや注意点について、詳しく解説します。

この記事が、人工関節とともに新たな生活をスタートされる皆様にとって、障害年金制度への理解を深め、経済的な不安を少しでも和らげるための一助となれば幸いです。

人工関節と障害年金の基礎知識

まず、障害年金制度の概要と、人工関節置換術がどのように障害年金の対象となるのかについてご説明します。

障害年金とは?

障害年金は、病気やケガによって法律で定められた障害の状態になった場合に支給される公的な年金です。初診日に加入していた年金制度に応じて、主に以下の2種類があります。

  • 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方(自営業者、専業主婦(夫)、学生、無職の方など)、または20歳前に初診日がある方が対象です。障害等級は1級と2級です。
  • 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方(会社員や公務員など)が対象です。障害基礎年金に上乗せして支給され、障害等級は1級から3級まであります。3級よりも軽い障害状態の場合には障害手当金(一時金)が支給されることもあります。

人工関節置換術も障害年金の対象です

人工関節置換術は、障害年金の認定基準において「肢体の機能の障害」の中の「人工骨頭・人工関節」に関する項目に基づいて評価されます。

変形性関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死症などにより、関節の機能が著しく損なわれた場合に行われる人工関節置換術は、失われた関節機能を代替するための重要な治療法です。このような人工物を体内にそう入置換すること自体が、一定の障害状態にあると見なされるため、障害年金の対象となり得るのです。

人工関節で障害年金を受給するための条件

人工関節で障害年金を受給するためには、主に以下の3つの条件を満たす必要があります。

  1. 初診日要件:人工関節置換術の原因となった傷病で初めて医師の診療を受けた日が特定できること 「初診日」とは、人工関節置換術を受ける原因となった傷病(例えば、変形性股関節症、変形性膝関節症、関節リウマチ、大腿骨頭壊死症など)の症状について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。この初診日にどの年金制度に加入していたかによって、支給される障害年金の種類が決まります。

  2. 保険料納付要件:年金保険料を一定期間納付していること 初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、以下のいずれかを満たしている必要があります。

    • 保険料納付済期間(免除・猶予・学生納付特例期間を含む)が加入期間の3分の2以上あること。
    • 初診日が令和8年3月31日以前(※執筆時点2025年5月8日のため、現行の特例に基づいています)にある場合は、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと(特例)。 (20歳前に初診日がある場合は、この納付要件は問われません)
  3. 障害状態要件:障害の程度が認定基準に該当すること 人工関節をそう入置換した場合の障害年金の認定基準は、以下のようになっています。

    • 原則として障害等級3級(障害厚生年金の場合): 日本年金機構の障害認定基準では、「一上肢の三大関節中(肩関節、肘関節、手関節)の一関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの」または「一下肢の三大関節中(股関節、膝関節、足関節)の一関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの」は、原則として障害等級3級に認定するとされています。これは、初診日に厚生年金に加入していた方が対象です。

    • 障害基礎年金の場合(1級または2級): 初診日に国民年金に加入していた方や20歳前傷病の方は、障害基礎年金の対象となります。障害基礎年金には3級の制度がないため、片側の関節(一上肢または一下肢の一関節)に人工関節をそう入置換しただけでは、原則として障害基礎年金の支給対象とはなりません。 しかし、以下のような場合は1級または2級に該当する可能性があります。

      • 両下肢の三大関節中のそれぞれ一関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける場合(例:杖や歩行器がなければほとんど歩けない、家事の多くが困難など)は2級に該当する可能性があります。
      • 両上肢の三大関節中のそれぞれ一関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける場合(例:食事や着替えに常時介助が必要など)も2級に該当する可能性があります。
      • その他、人工関節置換術後も著しい機能障害が残存し、日常生活が極めて困難な状態(2級相当)や、身の回りのことがほとんどできない状態(1級相当)であれば、障害基礎年金の対象となることもあります。
      • 複数の部位に障害がある場合は、併合認定により上位等級になることもあります。
    • 症状や日常生活の状況による総合評価: 人工関節をそう入置換したという事実だけでなく、その後の関節の可動域、筋力、安定性、疼痛の有無・程度、日常生活動作(ADL:歩行、階段昇降、立ち上がり、しゃがみ込み、正座、更衣、入浴、トイレ動作など)の状況、労働能力、治療の継続状況、X線写真などの検査成績を総合的に評価して、最終的な障害等級が決定されます。 手術した関節の部位(股関節、膝関節、肩関節、肘関節、足関節など)によって、日常生活への影響度合いも異なります。

人工関節の障害年金申請における重要なポイント

人工関節で障害年金を申請する際には、以下の点が特に重要になります。

  • 申請のタイミング(障害認定日): 人工骨頭または人工関節をそう入置換した日が障害認定日となります。これは、通常の傷病のように初診日から1年6ヶ月を待つ必要がない特例です。手術後、状態が安定したら速やかに申請準備に入ることができます。

  • 診断書の内容の正確性: 診断書は「肢体の障害用」(様式第120号の1)を使用します。医師には以下の情報を正確に記載してもらう必要があります。

    • 人工骨頭・人工関節のそう入置換年月日、種類、手術部位(右・左、具体的な関節名)。
    • 手術の目的となった傷病名とその発症からの経緯。
    • 手術後の経過、現在の関節可動域(他動・自動)、筋力。
    • 疼痛の有無、部位、程度、性質、持続時間、日常生活への影響。
    • 日常生活動作(ADL)の具体的な状況(例:「歩行は杖を使用すれば〇〇m可能」「階段昇降は手すりがあれば可能だが困難」「和式トイレは使用不可」など)。補助用具(杖、装具、車椅子など)の使用状況も重要です。 ご自身の状態(手術前の状態との比較、日常生活での具体的な支障、痛みの程度や頻度、どのような動作がどの程度困難か)を正確に医師に伝え、診断書に具体的に反映してもらうことが極めて重要です。
  • 病歴・就労状況等申立書の丁寧な作成: この書類は、発症から人工関節置換術に至るまでの経緯、手術後の生活の変化、関節の痛みや動きの制限、日常生活や就労における具体的な支障を、ご自身の言葉で時系列に沿って記載するものです。

    • どのような動作で困難を感じるか、どの程度の時間や距離なら活動できるか。
    • 杖や手すりの使用状況、家族からの介助の有無や内容。
    • 外出の頻度や範囲、交通手段の利用状況。
    • 就労している場合、仕事内容、職場での配慮、通勤方法など。 具体的に書くことで、審査員に実情が伝わりやすくなります。
  • 就労状況との関連(特に3級の場合): 障害厚生年金3級は「労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされています。人工関節をそう入置換して就労している場合でも、以前と同じように働けなくなったり、長時間の立ち仕事や重量物の運搬、頻繁な移動が困難になったり、職場からの配慮が必要になったりした状況を具体的に伝えることが重要です。

障害年金申請の流れ(人工関節置換術の場合)

人工関節置換術の場合、障害認定日が手術日となるため、比較的早期に申請手続きを開始できます。

  1. 年金事務所・市区町村役場への相談: 制度の概要や必要書類を確認します。
  2. 初診日の確認・証明書類の準備: 人工関節置換術の原因となった傷病の初診日を特定し、証明書類(受診状況等証明書など)を準備します。
  3. 医師への診断書作成依頼: 人工関節をそう入置換した医療機関の医師に、手術日以降の日付で診断書の作成を依頼します。
  4. 病歴・就労状況等申立書の作成: ご自身の状況を具体的に記載します。
  5. 年金請求書等の作成・提出: 必要書類を揃えて年金事務所または市区町村役場に提出します。
  6. 審査・結果通知: 通常3ヶ月~半年程度かかります。

社労士に障害年金申請を依頼するメリット

人工関節の障害年金申請は、障害認定日の特例や診断書の記載内容(特に関節可動域やADL評価)など、専門的な知識が求められる場面があります。社会保険労務士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  • 障害認定日の特例など、制度の正確な理解に基づいた適切なアドバイス。
  • 診断書作成依頼時のポイント(関節可動域の正しい測定方法の確認、ADL評価の重要性など)や、記載内容のチェック。
  • 日常生活や就労への影響を的確に伝えるための「病歴・就労状況等申立書」作成サポート。
  • 煩雑な手続きの代行による、ご本人やご家族の精神的・時間的負担の軽減。
  • 障害年金の専門家として、受給の可能性を高めるための最適な申請戦略の提案。

人工関節の障害年金に関するよくある質問

Q1. 人工関節を入れたら必ず障害年金3級をもらえますか?

A1. 初診日に厚生年金に加入しており、保険料納付要件を満たしていれば、一上肢または一下肢の三大関節の一つに人工関節をそう入置換した場合、原則として障害厚生年金3級に認定されます。ただし、症状が極めて軽く、日常生活や労働にほとんど支障がないと客観的に判断された場合など、個別の状況によってはこの限りではありません。

Q2. 股関節と膝関節、両方手術しましたが、等級は上がりますか?

A2. 例えば、両下肢の股関節と膝関節の計4関節に人工関節をそう入置換した場合や、右股関節と左膝関節など、異なる下肢の関節に手術した場合など、複数の関節に人工関節をそう入置換し、それによって日常生活や労働に著しい支障が生じている場合は、2級以上に認定される可能性があります。個別の状態によって判断されますので、専門家にご相談ください。

Q3. 働いていても障害年金はもらえますか?(特に3級の場合)

A3. はい、働いていても障害年金を受給できる可能性はあります。特に障害厚生年金3級は、ある程度の就労を継続しながらも「労働が著しい制限を受ける」状態が対象です。人工関節置換術により、仕事内容に配慮が必要になったり、以前と同様の業務遂行が困難になったりした場合は、その状況を具体的に伝えることが重要です。

Q4. 障害基礎年金(国民年金)の加入者でも、人工関節で障害年金はもらえますか?

A4. 片側の関節に人工関節をそう入置換しただけでは、原則として障害基礎年金の対象(2級以上)とはなりません。しかし、両下肢の機能に著しい障害がある場合(例:両下肢の股関節または膝関節に人工関節をそう入置換し、かつ杖や歩行器なしではほとんど歩行できないなど)や、他の部位の障害と合わせて総合的に判断された結果、2級以上に該当する場合は受給できます。

Q5. 手術してから数年経っていますが、今からでも申請できますか?

A5. はい、申請できます。障害年金の請求権の時効は原則5年ですが、これは「受給権が発生してから5年以内に請求しないと、最大5年分しか遡っての支給を受けられない」という意味です。障害認定日(人工関節そう入置換日)から5年以上経過していても、将来に向かっての年金はいつでも請求できます。ただし、遡及して受け取れるのは最大で過去5年分となります。

Q6. 人工関節の再置換術を受けたら、また申請できますか?または等級が変わりますか?

A6. すでに障害年金を受給している方が再置換術を受け、その結果として障害の状態が悪化した場合は、等級改定の申立(額改定請求)をすることができます。まだ受給していない方が再置換術を受けた場合も、その手術日を新たな障害認定日として申請できる可能性があります。

ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ

人工関節置換術は、多くの方に関節の痛みからの解放と活動的な生活を取り戻す機会を与えてくれます。そして、障害年金制度を正しく理解し活用することで、経済的な不安を軽減し、安心して治療の継続や日常生活を送るための一助とすることができます。

認定基準の解釈や申請手続きは複雑な面もありますので、「自分の場合はどうだろうか?」と少しでも疑問に思われたら、諦めずに障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。

当事務所では、人工関節をそう入置換された方々の状況を丁寧に伺い、障害年金の受給に向けて最適なサポートを提供いたします。

この記事が、皆様の不安を少しでも解消し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

>>お問い合わせ・ご相談はこちら

ご相談のご予約
055-971-6009

受付時間:平日8:30~17:00
(夜間・土日も対応可能)