人工透析で障害年金はもらえる?等級2級の基準・申請時期を社労士が解説
目次
慢性腎不全が進行し、人工透析(血液透析や腹膜透析)を導入された方、またそのご家族は、週に数回の通院や厳格な自己管理など、生活が大きく変化し、身体的・精神的なご負担に加え、経済的な不安も抱えていらっしゃることでしょう。
「人工透析になったら、障害年金がもらえると聞いたけど本当?」「等級は何級になるの?」「いつから申請できるの?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。人工透析療法を受けている方は、一定の条件を満たせば、原則として障害等級2級として障害年金を受給できる可能性があります。
この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、人工透析で障害年金を受給するための条件、認定基準、申請のタイミングや注意点について、詳しく解説します。
この記事が、人工透析とともに新たな生活を送る皆様にとって、障害年金制度への理解を深め、経済的な不安を少しでも和らげるための一助となれば幸いです。
人工透析と障害年金の基礎知識
まず、障害年金制度の概要と、人工透析導入がどのように障害年金の対象となるのかについてご説明します。
障害年金とは?
障害年金は、病気やケガによって法律で定められた障害の状態になった場合に支給される公的な年金です。初診日に加入していた年金制度に応じて、主に以下の2種類があります。
- 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方(自営業者、専業主婦(夫)、学生、無職の方など)、または20歳前に初診日がある方が対象です。障害等級は1級と2級です。
- 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方(会社員や公務員など)が対象です。障害基礎年金に上乗せして支給され、障害等級は1級から3級まであります。3級よりも軽い障害状態の場合には障害手当金(一時金)が支給されることもあります。
人工透析導入は原則として障害年金の支給対象です
人工透析療法(血液透析、腹膜透析(CAPD)、血液濾過、血液濾過透析など)を施行中のものは、障害年金の「腎疾患による障害」として、原則として障害等級2級に認定されます。
人工透析は、腎臓の機能が著しく低下した末期腎不全の患者さんに対して、体内に溜まった老廃物や余分な水分を除去し、血液を浄化するために不可欠な治療法です。この治療を継続的に受ける必要があること自体が、日常生活や労働に大きな制約をもたらすため、障害年金による経済的支援の対象となるのです。
人工透析で障害年金を受給するための条件
人工透析で障害年金を受給するためには、主に以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 初診日要件:人工透析導入の原因となった傷病で初めて医師の診療を受けた日が特定できること 「初診日」とは、人工透析導入の原因となった傷病(例えば、慢性腎不全、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎など)の症状について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。この初診日にどの年金制度に加入していたかによって、支給される障害年金の種類が決まります。原因疾患が慢性的なものである場合、初診日がかなり前になることもありますので、正確な特定と証明が非常に重要です。
- 保険料納付要件:年金保険料を一定期間納付していること (人工透析の原因となった傷病の)初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、以下のいずれかを満たしている必要があります。
- 保険料納付済期間(免除・猶予・学生納付特例期間を含む)が加入期間の3分の2以上あること。
- 初診日が令和8年3月31日以前にある場合は、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと(特例)。 (20歳前に初診日がある場合は、この納付要件は問われません)
- 障害状態要件:障害の程度が認定基準に該当すること 人工透析を施行中の場合の障害年金の認定基準は、以下のようになっています。
- 原則として障害等級2級: 日本年金機構の障害認定基準では、「人工透析療法を施行中のもの」は、原則として障害等級2級に認定するとされています。これには、血液透析だけでなく、腹膜透析(CAPD)、血液濾過、血液濾過透析なども含まれます。
- 障害等級1級に該当する場合: 2級の障害の状態(人工透析施行中)に加え、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの、つまり日常生活が極度に制限されるか、または常時介護を必要とするような状態(例えば、透析以外の重篤な合併症により長期臥床を余儀なくされている場合など)であれば、1級に認定される可能性があります。
- 障害等級3級に該当する場合(障害厚生年金のみ): 人工透析導入には至っていないものの、腎機能の検査値(血清クレアチニン濃度、eGFRなど)や自覚症状、他覚所見、日常生活への支障の程度によっては、障害厚生年金の3級に該当する場合もあります。しかし、この記事では主に人工透析導入後のケースに焦点を当てます。
人工透析の障害年金申請における重要なポイント
人工透析を導入された方の障害年金申請では、以下の点が特に重要になります。
- 申請のタイミング(障害認定日): 人工透析療法を初めて受けた日から起算して3ヶ月を経過した日が、障害認定日となります。これは、通常の傷病のように初診日から1年6ヶ月を待つ必要がない特例の一つです。この障害認定日以降に、障害年金の請求手続きを進めることができます。
- 診断書の内容の正確性: 診断書は「腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害用」(様式第120号の6-(2))を使用します。医師には以下の情報を正確に記載してもらう必要があります。
- 人工透析開始年月日(非常に重要です)。
- 透析の種類(血液透析、腹膜透析など)、週の透析回数・1回あたりの時間。
- 人工透析導入の原因となった傷病名とその発症からの経緯。
- 現在の自覚症状(全身倦怠感、食欲不振、貧血症状、浮腫、掻痒感など)。
- 関連する検査成績(血清クレアチニン、eGFR、尿蛋白、ヘモグロビン値など)。
- 日常生活の状況、特に身体活動能力の程度(どの程度の活動で症状が出るか、食事制限の状況など)。
- シャントの状態や合併症(心血管系、骨関節系、神経系など)の有無とその状況。 ご自身の状態(透析導入に至るまでの経緯、日常生活での具体的な支障、倦怠感の程度、食事・水分制限による困難さなど)を正確に医師に伝え、診断書に具体的に反映してもらうことが極めて重要です。
- 病歴・就労状況等申立書の丁寧な作成: この書類は、原因疾患の発症(初診)から人工透析導入に至るまでの治療の経緯(食事療法、薬物療法など)、透析導入後の生活の変化、自覚症状、日常生活や就労における具体的な支障を、ご自身の言葉で時系列に沿って記載するものです。
- 透析による時間的な拘束(週に数回の通院、1回数時間)。
- 厳格な食事制限や水分制限による精神的・肉体的負担。
- シャントの管理やトラブルへの対応。
- 倦怠感や体力低下による活動の制限。
- 就労している場合は、仕事内容、職場での配慮、通勤方法、透析との両立の困難さなども具体的に記載します。
- 初診日の証明の徹底: 人工透析の原因となる腎疾患は、自覚症状がないまま進行することも多く、初めて医療機関を受診した日がかなり前であるケースも少なくありません。初診日を特定し、それを客観的な資料で証明することが、障害年金受給の最初の関門となります。カルテが破棄されている場合など、証明が難しいケースもありますので、専門家にご相談ください。
- 腹膜透析(CAPD)も対象: 血液透析だけでなく、在宅で行う腹膜透析(CAPD)も同様に障害年金の対象となります。
障害年金申請の流れ(人工透析導入の場合)
人工透析導入の場合、障害認定日が「透析開始から3ヶ月を経過した日」となるため、その日以降に申請準備に入れます。
- 年金事務所・市区町村役場への相談: 制度の概要や必要書類を確認します。特に初診日の特定について相談しましょう。
- 初診日の確認・証明書類の準備: 透析導入の原因となった傷病で最初に受診した医療機関から「受診状況等証明書」を取得するなどして初診日を証明します。
- 医師への診断書作成依頼: 障害認定日(透析開始から3ヶ月経過日)以降に、透析治療を受けている医療機関の医師に診断書の作成を依頼します。
- 病歴・就労状況等申立書の作成: ご自身の状況を具体的に記載します。
- 年金請求書等の作成・提出: 必要書類を揃えて年金事務所または市区町村役場に提出します。
- 審査・結果通知: 通常3ヶ月~半年程度かかります。
社労士に障害年金申請を依頼するメリット
人工透析の障害年金申請は、原則2級と明確な基準がある一方で、初診日の特定や証明が困難なケースも多く見られます。社会保険労務士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
- 複雑な初診日の特定・証明に関する専門的なアドバイスとサポート。
- 障害認定日の特例など、制度の正確な理解に基づいた適切な手続きの進行。
- 診断書作成依頼時のポイントや、記載内容のチェックによる不備の防止。
- 日常生活や就労への影響を的確に伝えるための「病歴・就労状況等申立書」作成支援。
- 煩雑な手続きの代行による、ご本人やご家族の精神的・時間的負担の軽減。
- 障害年金の専門家として、スムーズな受給開始に向けた最適なサポート。
人工透析の障害年金に関するよくある質問
Q1. 人工透析を始めたら、必ず障害年金2級をもらえますか?
A1. はい、初診日や保険料納付要件を満たしていれば、人工透析療法(血液透析、腹膜透析など)を施行中のものは、原則として障害等級2級に認定されます。
Q2. 透析を始めてからどれくらいで申請できますか?
A2. 人工透析療法を初めて受けた日から起算して3ヶ月を経過した日が障害認定日となりますので、その日以降に申請手続きを開始できます。
Q3. 働いていても障害年金はもらえますか?
A3. はい、働いていても障害年金を受給することは可能です。障害年金は、労働能力の喪失または減少に対する所得保障の一面もありますが、人工透析を受けているという状態自体が障害等級2級に該当するとされているため、就労の有無にかかわらず支給対象となります(ただし、20歳前傷病による障害基礎年金の場合は所得制限があります)。
Q4. 腹膜透析(CAPD)でも血液透析と同じように対象になりますか?
A4. はい、腹膜透析(CAPD)も血液透析と同様に人工透析療法に含まれ、原則として障害等級2級の対象となります。
Q5. 障害者手帳(身体障害者手帳1級など)を持っていれば、障害年金も必ずもらえますか?
A5. 身体障害者手帳と障害年金は異なる制度です。身体障害者手帳で腎機能障害1級(人工透析)と認定されている場合、障害年金も2級に該当する可能性は非常に高いですが、別途障害年金の申請手続きを行い、審査を受ける必要があります。
Q6. 将来、腎移植を受けたら障害年金はどうなりますか?
A6. 腎移植を受け、透析療法が不要となり、かつ全身状態が改善して障害等級に該当しなくなった場合は、障害年金の支給が停止されることがあります。ただし、移植後も免疫抑制剤の服用が必要であったり、他の合併症があったりするなど、一定の障害状態が継続する場合は、等級が変更された上で支給が継続されることもあります。
ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ
人工透析導入は、生活に大きな変化をもたらしますが、障害年金制度を適切に利用することで、経済的な負担を軽減し、治療に専念したり、自分らしい生活を送るための一助とすることができます。
原則として障害等級2級に認定されるとはいえ、初診日の特定や書類の準備など、申請手続きには専門的な知識が必要となる場面もあります。「手続きが難しそう」「初診日の証明ができないかもしれない」と不安に思われたら、一人で悩まず、障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。
当事務所では、人工透析を導入された方々の状況を丁寧に伺い、障害年金の受給に向けて最適なサポートを提供いたします。
この記事が、皆様の不安を少しでも解消し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。