障害年金の遡及請求とは?過去分の受給可能性と申請ポイントを社労士が解説

「障害年金という制度を知らなかった」「体調が悪くて申請手続きができなかった」「何年も前に障害の状態だったけれど、今からでも請求できるの?」

様々な理由で障害年金の請求が遅れてしまい、本来受け取れるはずだった過去の年金を受け取れていない方がいらっしゃるかもしれません。そのような場合に、過去にさかのぼって障害年金を請求する「遡及請求(そきゅうせいきゅう)」という方法があります。

遡及請求が認められれば、最大で過去5年分の年金が一括で支給される可能性があり、経済的な不安を大きく軽減できることがあります。しかし、手続きは複雑で、特に過去の障害状態を証明することが難しくなるケースも少なくありません。

この記事では、障害年金申請代行を専門とする社会保険労務士が、障害年金の遡及請求の仕組み、認められるための条件、メリット・デメリット、そして申請時の重要なポイントや注意点について、詳しく解説します。

この記事が、過去の障害状態に対する年金の受給を諦めかけていた方にとって、新たな可能性を見出すための一助となれば幸いです。

障害年金の「遡及請求」とは?

まず、障害年金の基本的な請求方法と、遡及請求の違いについてご説明します。

障害年金の基本的な請求方法

  • 認定日請求(本来請求): 障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月を経過した日、またはそれ以前に症状が固定した日など)に障害等級に該当する場合に、障害認定日の翌月分から年金を請求する方法。障害認定日から1年以内に請求する必要があります。
  • 事後重症請求: 障害認定日には障害等級に該当しなかったものの、その後症状が悪化し、65歳に達する日の前日までに障害等級に該当するようになった場合に、請求した日の翌月分から年金を請求する方法。

遡及請求とは?

遡及請求は、障害認定日の時点では障害等級に該当していたにもかかわらず、何らかの理由で障害認定日から1年以上経過して請求を行う場合に、障害認定日までさかのぼって年金の支給を求める請求方法です。

つまり、「本来であれば障害認定日から年金を受け取れたはずなのに、請求が遅れてしまった」という方が、過去に受け取れたはずの年金分を請求するのが遡及請求です。

遡及できる期間の「時効」について

重要な点として、年金を受け取る権利(支分権)には5年の時効があります。そのため、遡及請求が認められたとしても、実際にさかのぼって受け取れる年金は、請求した時点から最大で過去5年分となります。障害認定日が5年以上前であっても、5年を超えた分については時効により受け取れません。

ただし、将来に向かっての年金を受け取る権利(基本権)は、5年を過ぎても消滅するわけではありません。

遡及請求ができるための主な条件

遡及請求が認められるためには、以下の主な条件をすべて満たす必要があります。

  1. 初診日要件・保険料納付要件を満たしていること: 通常の障害年金請求と同様に、障害の原因となった病気やケガの初診日が特定でき、その前日において一定の保険料納付要件を満たしていることが大前提です。

  2. 障害認定日において、障害等級に該当する障害状態であったことを証明できること: これが遡及請求における最大の関門です。障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月後、または症状固定日などの特例日)の時点で、障害年金を受給できる程度の障害状態であったことを、当時の医療記録(診断書など)に基づいて客観的に証明する必要があります。 通常、障害認定日から1年以上経過して遡及請求を行う場合は、以下の2つの診断書が必要となります。

    • 障害認定日時点の診断書: 障害認定日から3ヶ月以内の症状が記載されたもの。当時のカルテに基づいて作成してもらいます。
    • 請求日時点の診断書: 年金請求日の直前3ヶ月以内の症状が記載されたもの。
  3. 請求の時効(5年)の範囲内であること: 前述の通り、実際にさかのぼって受け取れるのは最大で過去5年分です。

遡及請求のメリット・デメリット

メリット

  • 過去の未支給分の年金が一括で支給される: 認められれば、最大5年分の年金がまとまって支給されるため、経済的に大きな助けとなることがあります。
  • 本来受け取るべき権利の回復: 過去に遡って受給権が認められることで、精神的な安堵感を得られることもあります。

デメリット

  • 障害認定日時点の障害状態の証明が困難: 時間が経過しているため、当時のカルテが残っていなかったり、医師が当時の状況を正確に把握・記載できなかったりする場合があります。
  • 手続きが複雑で時間と労力がかかる: 通常の請求よりも多くの書類や証明が必要となり、準備に手間と時間がかかることがあります。
  • 必ずしも認められるとは限らない: 証明が不十分な場合や、当時の障害状態が等級に該当しないと判断された場合は、遡及分が認められないこともあります。
  • 医療機関への負担: 過去のカルテを探し出し、当時の状況を思い出して診断書を作成することは、医師や医療機関にとっても負担となる場合があります。

遡及請求の手続きと必要な書類

遡及請求を行う際の一般的な流れと、特に重要な書類は以下の通りです。

基本的な流れ

  1. 専門家(社会保険労務士など)への相談: まずは遡及請求の可能性があるか、どのような準備が必要か相談しましょう。
  2. 初診日の特定と証明資料の準備。
  3. 保険料納付要件の確認。
  4. 障害認定日の特定。
  5. 障害認定日時点の医療機関への照会: 当時のカルテの有無、診断書作成の可否を確認します。
  6. 障害認定日時点の診断書の作成依頼: 医療機関に当時のカルテに基づいて作成してもらいます。
  7. 請求日時点の診断書の作成依頼: 現在の主治医に作成してもらいます。
  8. 病歴・就労状況等申立書の作成: 障害認定日頃の日常生活や就労の状況、および現在の状況を具体的に記載します。
  9. 年金請求書およびその他必要書類の準備と提出。

特に重要な書類

  • 障害認定日時点の診断書: これがなければ遡及請求は極めて困難です。当時のカルテに基づいて、障害認定日から3ヶ月以内の症状が記載されている必要があります。
  • 請求日時点の診断書: 請求日前3ヶ月以内の症状が記載されたもの。
  • 病歴・就労状況等申立書: 障害認定日頃の状況と現在の状況を具体的に記述し、診断書を補完します。
  • 受診状況等証明書(初診の証明)。
  • 戸籍謄本、住民票など。

遡及請求を成功させるためのポイントと注意点

  • カルテの有無の確認: 医療機関にはカルテの法定保存期間(医師法で定められているのは診療録の最終記載日から5年間)がありますが、それ以上長く保存されていることもあります。まずは当時の医療機関に丁寧に問い合わせてみましょう。
  • 医師との良好な連携: 遡及請求の趣旨や必要性を医師に十分に説明し、協力を得ることが不可欠です。当時の状況を医師に思い出してもらうために、ご自身の日記や家族の証言、当時の写真などを資料として提供することも有効な場合があります。
  • 病歴・就労状況等申立書の丁寧な作成: 診断書だけでは伝えきれない、障害認定日頃の日常生活や就労の具体的な困難さ、現在の状況との比較などを詳細に、かつ矛盾なく記載することが重要です。
  • 諦めずに多角的な証明を試みる: たとえ障害認定日時点の診断書作成が困難でも、当時の受診状況を示す他の資料(診療明細書、お薬手帳、入院診療計画書など)や、第三者の証明などが、間接的な証拠として考慮される可能性もゼロではありません。
  • 時効の起算点に注意: 年金の支給事由が生じた日(障害認定日)の翌月から時効のカウントが始まります。

社労士に遡及請求を依頼するメリット

遡及請求は、通常の障害年金請求よりも手続きが格段に複雑で、専門的な知識と経験が求められます。社会保険労務士に依頼することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 遡及請求の可能性の的確な判断と、最適な申請戦略の立案。
  • 過去の医療記録の調査・収集に関するアドバイスや、医療機関との交渉サポート。
  • 障害認定日時点の障害状態を立証するための証拠収集や書類作成の専門的なサポート。
  • 医師への診断書作成依頼時の適切な情報提供と連携。
  • 煩雑な書類作成や年金事務所との煩わしいやり取りをすべて代行し、ご本人やご家族の負担を大幅に軽減。
  • 万が一、当時のカルテがない場合などの代替手段の検討やアドバイス。

「障害年金 遡及請求」に関するよくある質問

Q1. 障害認定日から5年以上経っていますが、遡及請求はもうできませんか?

A1. 遡って受け取れる年金は最大で過去5年分となります。障害認定日が5年以上前の場合、5年を超えた期間分については時効により受け取れませんが、5年分の遡及と将来に向かっての年金は請求可能です。受給権そのものが消滅するわけではありません。

Q2. 障害認定日頃に通っていた病院が廃院していたり、カルテが破棄されていたりする場合はどうすればよいですか?

A2. 証明は非常に困難になりますが、完全に諦める必要はありません。当時の医師が別の医療機関で開業していれば相談してみる、他の受診記録や第三者の証明など、間接的な証拠で立証を試みるケースもあります。まずは専門家にご相談ください。

Q3. 遡及請求が認められなかった場合、もう一度請求できますか?

A3. 遡及請求が認められなかった(障害認定日時点の障害状態が等級非該当と判断された)場合でも、その後症状が悪化していれば、「事後重症請求」として再度請求できる可能性があります。また、審査結果に不服がある場合は、審査請求・再審査請求という不服申し立ての手続きも可能です。

Q4. 遡及請求でまとまったお金が入った場合、税金はかかりますか?

A4. 障害年金は、所得税も住民税も非課税です。遡及分としてまとまった一時金が支給された場合でも、税金はかかりません。

Q5. 遡及請求と事後重症請求は同時にできますか?

A5. 年金請求書(様式第107号)には、障害認定日による請求(遡及請求を含む)と事後重症による請求のどちらを希望するか、あるいは両方を希望するかを選択する欄があります。両方を希望することも可能です。

ご相談は静岡障害年金サポートきぼうへ

障害年金の遡及請求は、過去に受け取れるはずだった年金を取り戻すことができる大きなチャンスです。しかし、その道のりは平坦ではなく、特に「障害認定日時点の障害状態の証明」という大きなハードルがあります。

「自分には無理かもしれない」「書類を集めるのが大変そうだ」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、障害年金専門の社会保険労務士にご相談ください。専門家の知識と経験を活用することで、困難と思われた遡及請求が認められる道が開けるかもしれません。

当事務所では、遡及請求の可能性を丁寧に検討し、皆様が本来受け取るべき権利を実現できるよう、全力でサポートいたします。

この記事が、皆様の不安を少しでも解消し、希望を持って一歩を踏み出すためのお手伝いとなれば心より幸いです。

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